T細胞受容体 (T cell receptor:TCR) の活性化は、サイトカイン産生、細胞生存、増殖および分化を調節することによって最終的に細胞の運命を決定する多くのシグナル伝達カスケードを促進します。TCR活性化の初期段階では、TCR/CD3複合体の細胞質側で起こる免疫受容体チロシン活性化モチーフ (Immunoreceptor tyrosine-based activation motif:ITAM) のリン酸化が認められ、そのリン酸化はリンパ球チロシンキナーゼ (Lymphocyte protein tyrosine kinase:Lck) によって引き起こされます。CD45受容体チロシンホスファターゼは、Lckおよび他のSrcファミリーチロシンキナーゼのリン酸化および活性化を調節します。Zeta-chain associated protein kinase (Zap-70) は、TCR/CD3複合体にリクルートされ、そこで活性化を受けて、下流のアダプターまたは足場タンパク質のリクルートおよびリン酸化を促進します。Zap-70によるSLP-76のリン酸化は、Vav (グアニンヌクレオチド交換因子)、アダプタータンパク質NCK、およびGADS、およびInducible T cell kinase (Itk) のリクルートを促進します。ItkによるPhospholipase Cγ1 (PLCγ1) のリン酸化によって、Phosphatidylinositol 4,5-bisphosphate (PIP2) が加水分解され、セカンドメッセンジャーであるDiacylglycerol (DAG) やInositol trisphosphate (IP3) が産生されます。DAGは、PKCθおよびMAPK/Erk経路を活性化し、いずれも転写因子NF-κBの活性化を促進します。IP3は小胞体からのCa2+イオンの放出を引き起こし、これによりCalcium release-activated Ca2+ (CRAC) チャネルを介して、細胞外のCa2+イオンが細胞内へ流入します。カルシウム結合型Calmodulin (Ca2+/CaM) はホスファターゼであるCalcineurinを活性化し、これにより転写因子NFATを介してIL-2遺伝子の転写を促進します。これらのパスウェイ内ではフィードバック制御がいくつか存在しており、これにより細胞タイプや環境に依存した異なる結果を与えます。これに加えて細胞表面の受容体 (CD28やLFA-1など) からシグナルを取り込むことで、細胞応答をさらに調節します。
この図の作成にご貢献下さった、コロンビア大学 (ニューヨーク州、ニューヨーク) のSankar Ghosh教授に感謝いたします。
作成日:2004年9月
改訂日:2014年7月