様々な翻訳後修飾の間でおこっているクロストークの例

Examples of Crosstalk Between Post-Translational Modifications

経路の説明:

近年、翻訳後修飾が、タンパク質機能の制御に大きな役割を果たすことがわかってきている。たとえば、メチル化、アセチル化、リン酸化、スモ化など、様々な化学修飾が知られている。これらの翻訳後修飾は、はじめヒストンタンパク質で明らかにされていたが、今や非ヒストンタンパク質でもこれらの修飾が見つかっている。当初これら修飾の役割については漠然としたもので、たとえば、ヒストンアセチル化は遺伝子転写の活性化に、メチル化は遺伝子転写の抑制に関連すると考えられていた。しかし、最近の研究から、これら修飾の一部ではその状況に応じて、転写活性化にも抑制にも働きうることがわかってきた。たとえばヒストンH3 の9番目のリジン残基 (H3K9) 側鎖がメチル化されると転写抑制に働く。が一方4番目のリジン残基 (H3K4) 側鎖がメチル化を受けると、それは転写活性化に働く。さらに、これらリジン残基の一つ一つにおいてもモノメチル化、ジメチル化、トリメチル化の場合があり、このメチル化の度合いに応じて、生じる生物学的効果は明らかに異なってくると予想される。最近まで、翻訳後修飾はそれぞれ独立して機能すると考えられ、互いにその働きには関連性はないと思われていた。しかし現在では、翻訳後修飾は一体となって働き、異なる修飾でも相互に関連しあい、この「クロストーク」が最終的に生物現象を決定するものであることが明らかとなっている。このように、ある翻訳後修飾が他の修飾に影響を与え、これらの特異的な組み合わせが躍動する生命現象の体系を形作っていると考えられる。上の図には、このようなクロストークの例をいくつか示す。ここで示す例は、同一分子内に起こる複数の修飾がシスでクロストークする例である。が、最近では、ある分子に起こった修飾が、別の分子の修飾をトランスで制御していることも明らかとなっている。少なくともヒストンでは、1分子のヒストンに起こった修飾が、他のヒストン分子たちの修飾をトランスで制御していることがわかっている。

現在このような機能ネットワークについては、いくつもの例が挙げられている。しかし、それは氷山の一角が見え始めたに過ぎない。このクロストークの微妙なコントロールが、生命現象の決め手となっているとも言える。まだよくわかっていないクロストークの解明には、より高品質の抗体や新たな技術の開発が待たれる。

図の説明:

ヒストンH3

9番目のリジン残基H3K9 がメチル化しているとHP1 (heterochromatin protein 1) が結合してヘテロクロマチン形成が進み、転写は抑制状態となる。
Aurora kinase B やRas-MAPK 経路が活性化されると10番目のセリン残基H3S10 がリン酸化される。するとGCN5 (酵母のhistone acetyltransferase) による14番目のリジン残基H3K14 のアセチル化が促進される。これらH3S10 のリン酸化や、H3S10 のリン酸化とH3K14 のアセチル化両者が起こると、H3K9 のメチル化は阻害され、HP1 はH3 より解離する。またHAT (histone acetyltransferase) によりH3K9 がアセチル化を受けてもHP1 は解離する。HP1 の解離により転写は活性化する。

ヒストンH4

20番目のリジン残基H4K20 がトリメチル化と、N端にある4つのリジン残基K5、K8、K12、K16 の高アセチル化は逆相関する。H4K20 のトリメチル化はH4 の高アセチル化を阻害し、逆にH4 高アセチル化はH4K20 のトリメチル化を阻害し、H4K20 のモノメチル化と両立する。前者は転写抑制型のヘテロクロマチン形成に関与し、後者は転写活性型のユークロマチン形成に関与する。
HDAC (histone deacetylase) が脱アセチル化に関与し、SUV4-20H (suppressor of variegation 4-20 homolog, histone H4K20-specific trimethyltransferase) がH4K20 のトリメチル化に関与する。一方HAT1 (histone acetyltransferase 1)、CBP (CREB binding protein)、TIP60 (Tat interacting protein, 60 kDa) などのHAT が上記4つのリジンアセチル化に関与し、PR-Set7 (histone H4K20-specific methyltransferase) がH4K20 のモノメチル化に関与する。

p53

ユビキチンリガーゼであるMDM2 はp53 に結合すると4つのリジン残基K372、K373、K381、K382 のユビキチン化を起こす。ユビキチン化されたp53 はプロテアソームで分解される。
DNA に障害が起こるとChk2 (checkpoint kinase 2) が活性化され、p53 のS20 をリン酸化する。するとMDM2 はp53 との複合体形成ができず解離する。Set7/9 (histone H3K4-specific methyltransferase) もDNA 障害に伴い、p53 のK372 をメチル化する。この修飾によりユビキチン化も阻害され、p53 は安定化に向かう。 さらにK372 のメチル化はTIP60 を呼び寄せK120 をアセチル化する。またK120 のアセチル化はCBP/p300 を呼び込み、K381 やK382 のアセチル化を起こす。このようにしてp53 はユビキチン化から逃れ安定化する。これらp53 のアセチル化は、アポトーシス促進性の遺伝子を標的として転写を活性化する。

MEF2A

静止状態の神経細胞では、転写因子MEF2A (myocyte specific enhancer factor 2) のS408 がリン酸化しておりK403 がスモ化している。このような修飾を受けたMEF2A は転写リプレッサーとして働き、顆粒神経細胞は樹状突起の棘突起分化を促進する。
神経細胞の膜電位に脱分極が起こるとカルシウムイオンが流入し、カルシウムイオン依存性の脱リン酸化酵素カルシニューリンがMEF2A のS408 のリン酸基を脱リン酸化する。するとK403 のスモ化がアセチル化にスイッチされ、MEF2A が転写因子として標的遺伝子の転写を促進する。このような神経細胞では分化が起こらない。

参考文献:

We would like to thank Prof. Raul Mostoslavsky, Harvard Medical School, Boston, MA, for contributing to this diagram.

翻訳監修: 日本大学 医学部 病態病理学系病理学分野 江角眞理子先生

created May 2009

revised November 2010

様々な翻訳後修飾の間でおこっているクロストークの例

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